インタビュー:2025年1月!注目の現役若手AIエンジニアの下向拓生監督が描く検察×AIのSFミステリー!「INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部」01 ペルソナ・02 名前のない詩・03 faith公開前インタビュー

 

2025年1月10日より、池袋HUMAXシネマズ、TOHOシネマズなんばほかにて全国公開が決定している「INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部」シリーズ。この作品について誰よりも詳しく知っているのは監督という事で、下向拓生監督に作品公開前にインタビューをさせて頂きました。


Q.映画の世界観について教えて下さい。
下向監督:
映画の世界観は、改元が行われなかった世界、平成39年という近未来の話です。この映画の前作「センターライン」(2018年公開)という作品があって、ほぼ今の日本と同じ世界観で、大きく異なるのは自動運転が普及しているところですね。その中で初めて自動運転AIを起訴した女性検察官がいて、それが主人公の米子天々音(よなご・あまね)です。

「センターライン」では無理やり法解釈をしてAIの裁判をしたのですが、その事件をきっかけに法律が変わり、今作「INTER::FACE」では実際にAIが法律的に裁ける世界になりました。この世界では、AIが感情や意思を持ち始めていて、感情があるところには犯罪が起きるという事で、AIが裁かれていく。そういう世界観ですね。

Q.監督はAIの世界はどういう風に進化すると思いますか?
下向監督:
現実世界でのAIは、単一機能の物ばかりで、人間のようにいろんなことを総合的に考え動けるようになるまでにはかなり難しいんじゃないかと思っています。より現実の延長線上で考えるなら、恐らく単一機能のAIが連なっていくと思います。

Q.映画のテーマ性について教えて下さい。
下向監督:
私は、AIへの危機感はあんまり無いんです。私は仕事でもAIを使っているのですが、仕事上のAIと、我々が昔からイメージする、期待しているAIとは少し違っていて、私は昔の友好的なAIが好きなので、人間のパートナー、相棒になれるような、キャラクターと言うか”人種”に育っていって欲しいなという願望があります。

例えば、自動運転AIだったら、それはAIという無機物なものかもしれないけど、接している我々からするとタクシーの運転手と一緒な訳です。タクシーの運転手に反乱を起こされるんじゃないかとか思わないですよね。そりゃ、運転手に乱暴な物言いをすれば、乗車拒否をされるかもしれないですけど。タクシーの運転手を人としてリスペクトして接しているから安心して利用できるんです。AIも一つの人格としてリスペクトすれば、特に怖い事は無いんじゃないかなと思います。

Q.監督は「AIと人種」を今回のインタビューで何度か話されていますが、人種が生まれるとどうなりますか。
下向監督:
難しいですね。今、人種と言ったのはある種のメタファー(隠喩)なので、本当に法・社会整備として、人として一緒に扱えるかと言うと難しいと思います。今作も、前作(「センターライン」)でも言及しているのですが、人類同士が共存するのにあたって、ルール・法律が必要で、法律を守るモチベーション(動機付け)や制約には、刑罰が一つあると思います。刑罰を受けるのが怖いから、仕方なく従っているという側面があるかと思います。

人間は失って困るもの、命、お金、時間などがあるから、刑罰が成り立っているのですが、AIにはそれがない。命は無い、時間は無限だし、お金も持ってない。制約条件が働かない。そういう意味で、人間と同じように法律を適用するのはかなり難しいと思います。

ただ、この映画の中でも述べていますが、刑罰は人の大切なものを奪う事で成り立つので、AIにも大切なものがあるのであれば、それを奪う形で、AIもコントロール出来るんじゃないかと。

もし、AIが感情を持ったら、その感情自身が大切なものになり得ると思うんです。誰かを好きになる気持ちや、何かを守りたいという気持ち、自分自身がそのまま自分らしく生きていきたい気持ちとか。そういうものがあれば、刑罰も成り立つのではと。

そこが、卵が先か、鶏が先かの話で、感情が生まれたから刑罰が適用出来るのか、元々感情があったところに無理矢理法律を当てはめたことで可視化されたのか。そういう所が凄く入れ子状態になっていて、答えは無いのですが、そういうのを考えるのがとても好きで面白く感じています。

Q.監督はAIが好きですか?
下向監督:
好きかと言うと、私は大学時代から情報工学をやっていて、大学からプリミティブ(原始的)な機械学習からやっているので、馴染みは凄くあります。ソフトウェア自体の技術は、ハードウェアの制約を受けないとは言えないけど、ハードウェアよりもより自由で、いろんな可能性を引き出せる技術だと思います。

AIに関しては古来1950年代からずっと研究されていて、何度もブームの波が来ています。AIの基本原理は変わっていないのですが、今はハードウェアの向上によって急速に進化しています。AIの技術そのものが、凄く可能性が大きくなっていると思うので、そこはもちろんツールとして活用したいと思います。

今回、持ち出した題材はデジタルツイン(注:あらゆるもののコンピュータ上のシミュレーションモデル)なのですが、この映画の世界では「人間の感情や意思をシミュレーションしたもの」をデジタルツインと言っています。それを何故思いついたのかと言うと、私が欲しいと思ったからなんですよね。

前作(「センターライン」)を作った時は、撮影はいろんな方に協力してもらいましたが、それ以降は、エンジニアとしてフルタイムで働きつつ、映像編集して、関係者とのメールのやり取りをして、SNSも複数運営して、というのを全部自分一人でやっていて、もう一人自分が欲しいなと思ったんですよね。自分の代わりに仕事をしてくれるAIがいたらいいなと思ってデジタルツインを思いつきました。

Q.検察官の米子をサポートするAIのスマートバッジ「テン」について教えて下さい。
下向監督:
前作(「センターライン」)の話になりますが、主人公が検事、その相手カーナビのロボットで犯罪者。起訴する、起訴しない、という関わりの中で交流を築いていくのを描いていく、ということで、人間とAIのバディ物を作りたかったんです。

ただ、その時に検察庁に取材に行って、検察官にお話しを伺った時、「検察官と検察事務官は必ず一緒に行動する」と聞きました。その事実は守りたいと思って、前作の場合は、人間側の相棒としては人間の検察事務官を付けて、AIと対峙するという形を取りました。

今回は続編とはいえ、新規のお客様を意識して半分リブート(再起動)のつもりで作ろうと考えていたので、どうしても最初のコンセプトで、AIとバディ物としてやりたいと思ったんです。検察官とバディとして何が良いかと考えたら、バッジだと思ったんですね。

検察官にとってバッジは誇りだし、常に身に付けている。これがスマート機器になったら、面白いと思ったんです。もうひとつは、個人的なこだわりですが、敵対する人は相対している。仲間、バディは同じ方向を見ている、そういうことを意識して演出しています。バッジも、米子検事と同じ方向を見ていますよね。

Q.現実に「テン」のようなスマート機器が出来るには何年後ですか?
下向監督:
小道具ではなく、実際の物としては難しいと思います。何故かと言うと、このバッジの開閉する瞼があるじゃないですか、この瞼のパーツがこの小さいバッジの筐体の中に収まらないんです。映像的な嘘をついていて、バッジの金属の下にもう少し大きなカバーがあって、そこに瞼やメカなどのパーツが隠れているんです。検事がスマートバッジを身に付けている時も、服の下にこのメカ部分を隠していて。物理的に、この小ささでこのように動くのは不可能なんですよ(笑)。

Q.この映画のターゲット層はどの辺ですか?
下向監督:
特に若い人に注目して貰いたいなという思いがあります。今作の脚本を書いたのは私が31、2歳の時なのですが、その歳までに経験したこと、自分が20代、30代前半で感じたことを入れているので、そういう所に、今の若い方に、響くのではないかなと思っています。

Q.今回の三部作について、簡潔に教えて下さい。
下向監督:
・「ペルソナ」の見どころ
「ペルソナ」については凄く物語がシンプルです。一作目としては物足りないと思うかもしれませんね(笑)。見どころはAIというデジタルなものがタブレットの中に生きていて、その生き物が自律的に話して、それに対して検事もインタラクティブ(相互的)に話しているのが映像としても面白いかなと思っています。裁判シーンも結構拘って作ったので臨場感を感じて欲しいです。

・「名前のない詩」の見どころ
これは全然毛色が違う作品ですね。「ペルソナ」からシリーズものだと思ってご覧になったときに、どう思われるでしょうか(苦笑)。個人的に僕がやりたかった事を詰め込みました。(AIとは関係ないですが)僕は音楽が好きで、それを映画と組み合わせた、ミュージカルも好きなんです。

ミュージカルって嫌いな人もいて、その理由を尋ねると、「突然歌いだす意味が分からない」とかを聞きますよね。私は負けず嫌いな人間なので、「じゃあ歌う理由があればいいんだな」と(笑)。歌う理由を作るなら、絶対歌わないといけない状況に追い込まれればよい。歌を歌う事で事件が解決するというギミックはどうだろうかと。そういう、音楽とミステリーものを紐づけた作品は、自分が初とは言いませんが、多少は珍しくて目新しい作品なんじゃないかと思いますし、SFやミステリーに興味はなくても、純粋にバンドメンバーの青春群像劇として楽しんで貰えたらいいなと思います。

・「faith」の見どころ
お客様にとっての見どころっていうのが難しいですね。これも私のやりたい事を詰め込んだ感じなんですが、ソフトウェアエンジニアとして、業界あるあるがあるんですよね。コンピュータの性質のこういう所に躓いたとか。そういう専門知識を利用して、ミステリーが作れないかなと思ったんですよね。そういう所を楽しんでもらえればなと思います。

前作の「センターライン」という映画はAIに感情があるかを裁判で証明する、というストーリーでしたが、映画の中でAIの感情を証明するだけじゃなくて、その映画を見たお客さんの中で、このAIに感情があったのかどうかを感じて欲しいなと。

結局AIに感情があるかは自分たちがそれを信じるかどうかだと私は思っていて。それって、お芝居も同じで、役者さんが劇中で泣いたりすると、それを我々も感情移入して、貰い泣きしたりしますよね。でも、役者さんは、必ずしも本当に悲しくて泣いているわけではなく、演技として泣いていることだってあるわけです。それでなぜ作品が成立するかというと、観客がそのキャラクターが本当に泣いていると信じるから、そのキャラクターが、その世界で生きて感情を持っていると感じることができる。

人間は自分自身には感情があるのは分かりますが、自分以外の他人に感情があるかなんて証明できないし、分からないんです。それでも、自分と同じように他人にも感情があると思うのは、そう信じているからだと思うんです。

(電子通貨による贈収賄事件が描かれているfaithについて)お金も同じで、一万円札自体に物としての価値は無いけど、一万円と信じているから物の売買が成り立っている。実はAIとお金って、突き詰めていくとそういう共通点があるのを感じて面白いなと思って作ったので、そこまで深読みする必要は無いのですが、色んなものを信じるという事は、実体はないけど、すごく大事な事なんだなと、感じて貰えたらなと思います。


「INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部」
【キャスト】
吉見茉莉奈 大山真絵子 入江崇史 澤谷一輝

大前りょうすけ / 津田寛治

合田純奈 冥鳴ひまり(VOICEVOX)
松林慎司 みやたに 長屋和彰 荻下英樹
星能豊 南久松真奈 青山悦子 小林周平

中山琉貴 小松原康平 アビルゲン
松村光陽 辻瀬まぶき 澤真希
涼夏 美南宏樹 藤原未砂希 平井夏貴

長屋和彰 松本高士 香取剛
星能豊 松林慎司 もりとみ舞 橋口侑佳
長坂真智子 井上八千代 原田大輔 小川真桜

【スタッフ】
撮影監督:名倉健郎 撮影:名倉健郎 山縣幸雄 水島圭輔 照明:水島圭輔 録音:風間健太 ひらつかかつじ 合成協力:山縣昌雄
スタイリスト:SHIKI ヘアメイク:伊藤佳南子 美術:酒井拓人 スチル:内田綾乃 岡本ミヤビ 音楽:髙木亮志 劇中歌:ワスレナ 小野優樹 青地徹 エンジニア:平崎真澄
制作:美南宏樹 松田将大郎 倉橋健 村瀬裕志 涼夏 法律監修:弁護士 鈴木成公 衣装協力:国島株式会社 名古屋空撮映像協力:前原桂太 宣伝デザイン:大井佳名子
ロケーション協力:いちのみやフィルムコミッション 岡崎市観光推進課 旧本多忠次邸 東海愛知新聞社 日本陶磁器センター 料亭菊水
知多半島フィルムコミッション 南知多ビーチランド 津島市シティプロモーション課
製作:Production MOZU / NAGURA TEAM 監督・脚本・編集:下向拓生


下向拓生(しもむかいたくみ)
1987年愛知県生まれ、富山県、福井県育ち。大阪府立大学(現大阪公立大学)工学部及び同大学院にて情報工学を学ぶ。在学中には映画制作部に所属し撮影・編集・アートワークを担当、同時に大阪市内のテーマパーククルーとしてエンターテイメント精神を学ぶ。卒業後は精密機械メーカーに就職し、アルゴリズム開発を担当しながら、シナリオを独学しオリジナル作品で映画制作を再開。オリジナル2作目『N.O.A.』が第4回クォータースターコンテストグランプリ受賞、初長編作品『センターライン』は福岡インディペンデント映画祭2018グランプリ受賞、個人としては愛知県芸術文化選奨文化新人賞(平成30年)を受賞。


「INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部」01 ペルソナ・02 名前のない詩・03 faith

公式サイト:
https://www.interface2027.com/

公式X:
https://x.com/CenterLine2027

公式Instagram:
https://www.instagram.com/interface2027/

©2025 INTERFACE

レポート:「一番の”Side U”は母!」Himika Akaneya 2nd Single「Side U(Prod.AmPm)」インタビュー

先日、Himika Akaneya 2nd Single「Side U(Prod. AmPm)」の発売を記念して、マスコミ向けインタビューが行われました。今回は、Himika Akaneyaさんに曲の魅力や「Side U」なエピソードを伺いました。

Q:今回のHimika Akaneyaさんの楽曲はミディアムバラードという事で、普段i☆Risで歌っているジャンルと比べて珍しかったと思いますが、技術面で難しかったことはありますか?

茜屋日海夏(以下、茜屋):
今回の「Side U(Prod. AmPm)」のサビはほとんどファルセットなんです。シングル一枚目の「Stereo Sunset(Prod. AmPm)」は音域が高すぎない自分の心地良いキーで歌っていたので、最初は少し不安でした。でも、ミニライブで生歌唱した時に、AmPmさんの曲のメロディは 意外に自分には歌いやすいと気付きました。

Q:サウンドプロデューサーのAmPmさんからディレクション(指示だし)はありましたか?

茜屋:
今回の曲は、C/Wも含めて、いつもi☆Risを担当してくださっているディレクターの方がやってくれました。i☆Risは5人いるので大体パートに毛色があり、”これ”と言うのがあるのですが、今回は一人なので、自分の思うように歌ったらOKが出て、あまり”こうしてほしい”というオーダーはありませんでした。

Q:「Side U (Prod.AmPm)」の聞きどころは?

茜屋:
サビの高い所はファルセットで歌っているのですが、私はラストサビ前のBメロの「季節が街に溶けて…帰れない」の「帰れない」はあえて地声で歌っているんです。そこが自分のこだわりポイントなので、聞き比べてほしいですね。裏声ではなく、高めの地声なんです。普段i☆Risで歌う時の声の出し方とは違う感じなので、オチサビを聞く前に聞いてほしいと思います。自分としても、歌い方はi☆Risの時と変えています。

Q:Himika Akaneyaとi☆Risの茜屋日海夏との違いは?

茜屋:
i☆Risは「前に、前に」というイメージの楽曲が多いのですが、Himika Akaneyaで歌っている時は、(後頭部の後ろのあたりで)身体の使い方のイメージも後ろに重心を置くというか。無理をしない感じです。頑張らない。”チル”みたいな感じです。

Q:Himika Akaneyaさんの人生の中で、一番「Side U」だった人は誰ですか?

茜屋:
芸能活動を始めて12年。思い返してみると、母かなと思います。家族の中でもやっぱり一番思い出深いですね。顔を合わせたらすぐケンカになるのですが(笑)。芸能活動を始めたばかりの頃、受験勉強と芸能活動の両立でてんやわんやになっていて、どっちも中途半端になっているなと悩んだ時期があったんです。親は私が東京から秋田に帰ると、空港まで迎えに来てくれたりしていて。すごく有難いことだったのに、私は若くて周りが全然見えなくて、カッとしてすぐケンカをしていました。母に謝らせるというのは今思うとすごく切なくて……。最初は母も芸能活動に反対していたんですけど、結局一番近くで活動を見てくれていたのも母なんですよね。親に仕事の報告はあまりしないのですが、一番チェックしてくれて連絡をくれるのも母でした。

Q:Himika Akaneyaさんの人生の中で、学生時代に一番「Side U」だった人は誰ですか?

茜屋:
中学校の学年主任だった、英語の先生です。私、本当に中学で数学が出来なさすぎて、先生に呼び出されていたくらいで(笑)。受験校も芸能活動を許可してくれる学校に行こうと考えていたのですが、英語の学年主任の先生から「英語が出来るんだから、ここに行きなさい」と言われて、英語科の推薦の前期試験を受けて。受かったのがその高校でした。その言葉がなかったら、高校に行けなかったかもしれないです。自覚はないけど、個性的で主張が強くて、きっと面倒くさい生徒だったと思うんです(笑)けど、先生は一人ひとりをちゃんと見てくれていたんだなと思います。


Himika Akaneya
2nd Single「Side U (Prod. AmPm)
2024.11.20 Release!!

2024年10月放送開始
TVアニメ『MFゴースト』2nd Season エンディング・テーマ曲

i☆Ris HP:
http://iris.dive2ent.com/

YouTube:
https://www.youtube.com/channel/UCi6z7BymHrLuUSr9bLK3T-Q

インタビュー:「いくつになっても、ときめく心が“恋するピアニスト”」映画「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」小松荘一良監督インタビュー

<Q.残念ながら公開前にフジコ・ヘミングさんは亡くなられましたが、この映画の制作はどのように始まったのですが?>
小松監督:
元々フジコ(・ヘミング)さんとの出会いは、2013年にテレビのミニドキュメンタリー番組の取材でお会いし意気投合しました。その後も日本に来られる度に声をかけていただき、近況や色んなお話をお聞きしていました。

その時にはフジコさんはもうすでにパリにも家を持っていて、世界中を飛び回る人気のピアニストだったのですが、メディアに取り上げられる内容はというと、相変わらずフジコさんの昔の苦労話ばかりでした。貧乏や貧困や、(耳の)障害を乗り越えて、ようやく60代後半でデビューしたというストーリーがずっと繰り返されていたのです。

でも、実際に僕の目の前にいるフジコさんはというと、生き生きと世界中を飛び回って夢を叶えている。だからいつか機会があったら“今のフジコさんの姿”を描きたいなとずっと思っていて作ったのが、前作の映画「フジコ・ヘミングの時間」(2018年)でした。

きっかけはフジコさんの「南米ツアーをして、どこも会場も満杯だった。人が溢れていた。現地の新聞も一面にもなったのよ。」という旅話。何故、フジコさんが南米で人気があるのかを知りたくて、今のフジコさんの姿をファンの人にも見せたいなと思いました。それで企画したのが「フジコ・ヘミングの時間」で、おかげさまでロングランヒットとなってたくさんの人に観てもらうことが出来ました。

その後、ちょうど別の作品に取り掛かっていた時にフジコさんから、「(ドイツの)マンハイムのお城でコンサートをやるから撮ってみないか。」と言われて。前作では、東京のコンサートはライブ映像としてもしっかり撮ったのですが、海外のコンサートはドキュメンタリーとしてでしか撮っていなかったので、ぜひハイスペックなカメラでコンサートを撮ってみたいと思い、当初はシネマココンサートとしての企画でした。2019年の話です。

そこから撮影の準備を始めたのですが、マンハイムのお城から許可が出なかったので、それだったらフジコさんが好きなパリで自分たちがコンサートを主催してそれを撮ろうという話になりました。そして、そこに至るまでの日々もドキュメンタリーとしても撮りましょうと。

2020年2月にサンタモニカの自宅でクランクインをして、翌月の3月にパリのコンサートを撮ってクランクアップする計画にしていたのが、突然のコロナ禍で世界中が大変なことになってしまって、3週間前にコンサートをキャンセルして、撮影も延期になりました。

そこから、本作は大きく企画方針を変えて、コロナ禍前の生活から、コロナ禍を乗り越えて、パリのコンサートを開催するという物語の長編ドキュメンタリー映画としてかじを切りました。結果として撮影は4年間かかりました。

<Q.前作の「フジコ・ヘミングの時間」と今回の「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」でのフジコ・ヘミングさんの変化を教えて下さい>
小松監督:
前作「フジコ・ヘミングの時間」は2016~2018年にかけてのワールドツアーの様子や海外での生活の様子を一緒に旅して描きました。

今回はそこから6年間で変わっていった、アーティストして、人としてのフジコさんの進化を感じました。それは80代から90代に向けての身体の変化や、心の捉え方や精神性などの変化、以前とはこんなに違うんだという印象があります。

アーティストとして、人の前に立つ以上は格好良くありたいという所をどう守っていくかの強さを感じましたし、年齢での変化をどうとらえていくか、戦いみたいなものも本人の中であったと思います。

そしてもう一つは、これは元々フジコさんが持っていた考え方なのですが、フジコさんならではの「死生観」に興味がありました。家族や動物たちが亡くなるたびに凄く悲しんではいるけど、どこかクールな様子が不思議でした。特にこれまで多くの動物と暮らしてきて、保護猫などは命が短かったそうです。

どうして取り乱しもせずクールなのかと訊くと、フジコさんは「天国でまた会えるから。」とサラリと答える。こういった捉え方は、そばにいて僕は多くの影響を受けました。根底には、幼い頃の父との別れや戦争、差別や貧困など、フジコさんが苦労してきた人生から「死んでも天国でいろんな人に会えるから、死は悲しいものではないのよ。」という境地にたどりついたのではないかと思って、今作のテーマの一つしました。

だから、今年フジコさんは天に召されましたが、僕はこの映画を見て、ファンの方が号泣するような映画は作りたくはなかった。ちょっとホロリとするけど、前向きにとらえてほしい。フジコさんを近くに感じたい時は、この映画を見たり、音楽を聴いたり、彼女の生き方に思いを巡らせたりする。そんな事で、フジコさんが人生をかけて作り出した“フジコ・ヘミングという魂”から勇気をもらっていってほしいなと思っています。

<Q.どういった方に見て欲しいですか?>
小松監督:
本作のタイトルにある「恋する」ですが、恋愛だけにとどまらず、「恋する」と“は好きなことにときめく心を持つこと”という意味でつけました。どんな苦労していても、ときめいて前を向いて生きていくのがフジコさんのスタイルで、どの社会も時代も、苦しい事、悲しい事はあって、その中で、どうやって前向きに生きていくか、どうやって自分の心を守りながら生きていくか。

色んな自分の好きなものを集めて、自分だけの宝物を周囲に置くことによって、生きる活力を作っていった。そんな彼女の生き方に、さまざまな人生のヒントが隠されていると思っています。そしてその生き方が、あの演奏や音色につながっていると。

今回の「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」では、クラシックに興味の無い方でも耳馴染みのある名曲も多く、コンサートシーンも17台の4Kカメラでダイナミックに撮影し、フジコさんの指先のまで描写しています。国内はもとより、200年の歴史を誇るパリのコンセルヴァトワール劇場でのコンサートも見どころのひとつなので、ぜひ御覧ください。


<映画情報>
『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』
出演・音楽:フジコ・ヘミング
監督・構成・編集:小松莊一良
プロデューサー:大村英治 佐藤現
企画:スピントーキョー
制作プロダクション:WOWOWエンタテインメント
制作:東映ビデオ、WOWOWエンタテインメント、スピントーキョー、WOWOW
配給:東映ビデオ

10月18日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー


<サントラ情報>
『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』 オリジナル・サウンドトラック~COLORS2
ユニバーサル・ミュージックにて発売中
https://www.universal-music.co.jp/ingrid-fuzjko-hemming/products/uccs-1395/


公式サイト:
https://fuzjko-film.com/

公式X:
http://x.com/Fuzjko_film

公式Instagram:
https://www.instagram.com/fuzjko_film/

©2024「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」フィルムパートナーズ

インタビュー:「ダンサーの先に見えるものは?」第12回高等学校ダンス部選手権(avex presents DANCE CLUB CHIMPIONSHIP)上位受賞校インタビュー

授賞式が終わり、観客の方が帰ったところで、上位校(3校)にインタビューをさせて頂きました。

一つ目は、武南高等学校(和勢:わっしょい)チームのインタビューですが、まだ終わってから時間が経ってなかったということもあり、メンバーの高揚感が非常に強く、個性的なインタビューとしては、「夢」については、「世界」と答えるなど、かなり大きく出ていましたが、是非とも実現して欲しいと思いました。

優勝した武南高等学校チームは、フリースタイルで踊っているように見せて、ちゃんと拍は取っていて、各々のアイコンタクトとかだと思いますが、想像していたよりも出来上がっていたと思います。しかし、気になる点としては、予選は男性審査員がとても良かったと褒めるくらいだったと思いますが、決勝については、KENZOさんはパリ2024オリンピックに見に行くほどのブレイキンに熱中していることや、ISSEIさんは顔なじみということで、普通の賞レースの場合は、初対面が基本のような気もします。ダントツだったとは言え、ちょっと評価が甘かったのではないかと思います。

続いては第二位、樟蔭高等学校ですが、短い時間でしたが、表現力ではなく、敢えて技術について、話を聞きました。記者の目では、決勝ステージは点数差がかなり開いていましたが、女子生徒のレベルで出来る最高のパフォーマンスであり、高校で引退をする人もいれば、大学や専門学校とかで、極めたいという人もいると思います。

そこで、今回のダンスの振付について聞いたのですが、基本的には自分たちで考えて決めたという事で、ブレイキンが無ければ優勝だっただけに、生徒のクリエイティブ能力の高さを感じました。引率の先生からも、今日もアドリブをしていたと話しており、踊るたびに同じパフォーマンスは無いという事で、常に改善という形で、今後も進化していくものだと思います。

生徒達のクリエイティブ能力の高さに、振付師に興味がある人は居ませんか?と聞いたところ、手を挙げる人は居なかったのですが、将来的にプロも目指せる人は居ると感じました。

続いては第三位、帝塚山学院高等学校は決勝でも2チームが出ており、受賞したのは(鼓舞:マウイ)ということでしたが、こちらも完成度が非常に高く、樟蔭高等学校と同じように、振付はどうされましたか?という質問には、多くの人にかかわって貰っているという事で、プロが関わっているかは分かりませんが、話しぶりだと生徒、先生、OGの人たちの協力によって作られたのではないかと思います。

今回はちょっと毛色を変えて、プロの振付師の人がダンスの振りを付けると格段にレベルが上がるのですが、例えば、今回の決勝で審査員をしていたAkanenさんや、IBUKIさん、Ruuさんに振付を付けて貰えるとしたらどうですか?の質問には、恐れ多くて想像すら出来ないという感じで、困惑をされたのと、ダンスのジャンルが違うから、大変なのではと思われていました。

最後の質問で、先ほどのダンスの質問を踏まえ、今回の大会では様々なダンスが披露され、優勝はブレイキンでしたが、仮に優勝確定の場合だったら、ブレイキンをやりますか?という質問には、創作ダンスが好きでチアから変えたので、私は創作ダンスを一番にやっていきたいです。と熱い思いを披露して頂けました。

今回、三校の部長やキャプテンやキーマンの人に質問をさせて頂きましたが、想像しているよりも、ダンスの種類を変えるのは大変であり、相当の覚悟が必要なのと、37チームのパフォーマンスを全て見ましたが、各出場校は技術力はあると思うのですが、今回の大会は、技術ではなく、抽象的かもしれない表現力で苦戦している所が多かったと思います。独創性については、他の学校がやってなければの加点という感じなので、点数の半分以上を占めた、表現力というものへのアプローチが大変だったと思います。

今回の大会はあくまで取材だけだったので、各学校に行ってお話を聞くことは出来ませんでしたが、駆け出しではなく、何かしらのアーティストで実績を積んだ振付師の方に振付をして貰うと、今回は80点台が優勝でしたが、90点台が出ても可笑しくはないと思いました。

引率の先生と話した感じでは、プロにお願いすると、費用がちょっと高いと思われるかもしれませんが、今の時代のアイドルの振付はトップクラスになると、普通にプロの振付師の方が考えた物で演じています。DJ KOOさんのステージの時に、楽しく踊っていたYOASOBIのアイドルもあれはプロの振付師の人がついていると思います。

参加校の生徒の人たちは、ジャンルが違うから、踊れないと謙遜されましたが、普通に楽しく踊っていたので、出来なくはないと思います。振付師のプロ化はいきなりは難しいとしても、自分の学校のOGが実はダンサー兼振付師をやっているというのは少なくないと思います。

演者であるダンサーの人は、振付師をどういう意味合いで考えているかは知りませんが、ダンサーの上位職に振付師がいると思っていいと思います。自分が踊れない表現できない振付は出来ないし、ジャンルにもよりますが、ダンスがどうなっているのかを脳内で考えてアウトプットするのは、教えてもらう感じのダンサーに比べると難しいと思います。

ダンスというとアイドルを想像しがちですが、ミュージシャンも緩く踊っているのは、あれも一部は振付師が入って行っているはずなので、自分がダンスで輝くのも一つですが、自分の考えた内容でみんなが輝くパフォーパンスをする人が今回の大会から育っていって欲しいなと思います。

極端な話、ダンサーはアーティストのバックダンサーが多いと思いますが、正直競合が多いと思います。振付師も少ないかと言われれば、それなりにはいると思いますが、プロのダンスで生活する場合は、振付師もお勧めだと思います。