インタビュー:「いくつになっても、ときめく心が“恋するピアニスト”」映画「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」小松荘一良監督インタビュー

<Q.残念ながら公開前にフジコ・ヘミングさんは亡くなられましたが、この映画の制作はどのように始まったのですが?>
小松監督:
元々フジコ(・ヘミング)さんとの出会いは、2013年にテレビのミニドキュメンタリー番組の取材でお会いし意気投合しました。その後も日本に来られる度に声をかけていただき、近況や色んなお話をお聞きしていました。

その時にはフジコさんはもうすでにパリにも家を持っていて、世界中を飛び回る人気のピアニストだったのですが、メディアに取り上げられる内容はというと、相変わらずフジコさんの昔の苦労話ばかりでした。貧乏や貧困や、(耳の)障害を乗り越えて、ようやく60代後半でデビューしたというストーリーがずっと繰り返されていたのです。

でも、実際に僕の目の前にいるフジコさんはというと、生き生きと世界中を飛び回って夢を叶えている。だからいつか機会があったら“今のフジコさんの姿”を描きたいなとずっと思っていて作ったのが、前作の映画「フジコ・ヘミングの時間」(2018年)でした。

きっかけはフジコさんの「南米ツアーをして、どこも会場も満杯だった。人が溢れていた。現地の新聞も一面にもなったのよ。」という旅話。何故、フジコさんが南米で人気があるのかを知りたくて、今のフジコさんの姿をファンの人にも見せたいなと思いました。それで企画したのが「フジコ・ヘミングの時間」で、おかげさまでロングランヒットとなってたくさんの人に観てもらうことが出来ました。

その後、ちょうど別の作品に取り掛かっていた時にフジコさんから、「(ドイツの)マンハイムのお城でコンサートをやるから撮ってみないか。」と言われて。前作では、東京のコンサートはライブ映像としてもしっかり撮ったのですが、海外のコンサートはドキュメンタリーとしてでしか撮っていなかったので、ぜひハイスペックなカメラでコンサートを撮ってみたいと思い、当初はシネマココンサートとしての企画でした。2019年の話です。

そこから撮影の準備を始めたのですが、マンハイムのお城から許可が出なかったので、それだったらフジコさんが好きなパリで自分たちがコンサートを主催してそれを撮ろうという話になりました。そして、そこに至るまでの日々もドキュメンタリーとしても撮りましょうと。

2020年2月にサンタモニカの自宅でクランクインをして、翌月の3月にパリのコンサートを撮ってクランクアップする計画にしていたのが、突然のコロナ禍で世界中が大変なことになってしまって、3週間前にコンサートをキャンセルして、撮影も延期になりました。

そこから、本作は大きく企画方針を変えて、コロナ禍前の生活から、コロナ禍を乗り越えて、パリのコンサートを開催するという物語の長編ドキュメンタリー映画としてかじを切りました。結果として撮影は4年間かかりました。

<Q.前作の「フジコ・ヘミングの時間」と今回の「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」でのフジコ・ヘミングさんの変化を教えて下さい>
小松監督:
前作「フジコ・ヘミングの時間」は2016~2018年にかけてのワールドツアーの様子や海外での生活の様子を一緒に旅して描きました。

今回はそこから6年間で変わっていった、アーティストして、人としてのフジコさんの進化を感じました。それは80代から90代に向けての身体の変化や、心の捉え方や精神性などの変化、以前とはこんなに違うんだという印象があります。

アーティストとして、人の前に立つ以上は格好良くありたいという所をどう守っていくかの強さを感じましたし、年齢での変化をどうとらえていくか、戦いみたいなものも本人の中であったと思います。

そしてもう一つは、これは元々フジコさんが持っていた考え方なのですが、フジコさんならではの「死生観」に興味がありました。家族や動物たちが亡くなるたびに凄く悲しんではいるけど、どこかクールな様子が不思議でした。特にこれまで多くの動物と暮らしてきて、保護猫などは命が短かったそうです。

どうして取り乱しもせずクールなのかと訊くと、フジコさんは「天国でまた会えるから。」とサラリと答える。こういった捉え方は、そばにいて僕は多くの影響を受けました。根底には、幼い頃の父との別れや戦争、差別や貧困など、フジコさんが苦労してきた人生から「死んでも天国でいろんな人に会えるから、死は悲しいものではないのよ。」という境地にたどりついたのではないかと思って、今作のテーマの一つしました。

だから、今年フジコさんは天に召されましたが、僕はこの映画を見て、ファンの方が号泣するような映画は作りたくはなかった。ちょっとホロリとするけど、前向きにとらえてほしい。フジコさんを近くに感じたい時は、この映画を見たり、音楽を聴いたり、彼女の生き方に思いを巡らせたりする。そんな事で、フジコさんが人生をかけて作り出した“フジコ・ヘミングという魂”から勇気をもらっていってほしいなと思っています。

<Q.どういった方に見て欲しいですか?>
小松監督:
本作のタイトルにある「恋する」ですが、恋愛だけにとどまらず、「恋する」と“は好きなことにときめく心を持つこと”という意味でつけました。どんな苦労していても、ときめいて前を向いて生きていくのがフジコさんのスタイルで、どの社会も時代も、苦しい事、悲しい事はあって、その中で、どうやって前向きに生きていくか、どうやって自分の心を守りながら生きていくか。

色んな自分の好きなものを集めて、自分だけの宝物を周囲に置くことによって、生きる活力を作っていった。そんな彼女の生き方に、さまざまな人生のヒントが隠されていると思っています。そしてその生き方が、あの演奏や音色につながっていると。

今回の「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」では、クラシックに興味の無い方でも耳馴染みのある名曲も多く、コンサートシーンも17台の4Kカメラでダイナミックに撮影し、フジコさんの指先のまで描写しています。国内はもとより、200年の歴史を誇るパリのコンセルヴァトワール劇場でのコンサートも見どころのひとつなので、ぜひ御覧ください。


<映画情報>
『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』
出演・音楽:フジコ・ヘミング
監督・構成・編集:小松莊一良
プロデューサー:大村英治 佐藤現
企画:スピントーキョー
制作プロダクション:WOWOWエンタテインメント
制作:東映ビデオ、WOWOWエンタテインメント、スピントーキョー、WOWOW
配給:東映ビデオ

10月18日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー


<サントラ情報>
『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』 オリジナル・サウンドトラック~COLORS2
ユニバーサル・ミュージックにて発売中
https://www.universal-music.co.jp/ingrid-fuzjko-hemming/products/uccs-1395/


公式サイト:
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