2025年1月10日より、池袋HUMAXシネマズ、TOHOシネマズなんばほかにて全国公開が決定している「INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部」シリーズ。この作品について誰よりも詳しく知っているのは監督という事で、下向拓生監督に作品公開前にインタビューをさせて頂きました。
Q.映画の世界観について教えて下さい。
下向監督:
映画の世界観は、改元が行われなかった世界、平成39年という近未来の話です。この映画の前作「センターライン」(2018年公開)という作品があって、ほぼ今の日本と同じ世界観で、大きく異なるのは自動運転が普及しているところですね。その中で初めて自動運転AIを起訴した女性検察官がいて、それが主人公の米子天々音(よなご・あまね)です。
「センターライン」では無理やり法解釈をしてAIの裁判をしたのですが、その事件をきっかけに法律が変わり、今作「INTER::FACE」では実際にAIが法律的に裁ける世界になりました。この世界では、AIが感情や意思を持ち始めていて、感情があるところには犯罪が起きるという事で、AIが裁かれていく。そういう世界観ですね。
Q.監督はAIの世界はどういう風に進化すると思いますか?
下向監督:
現実世界でのAIは、単一機能の物ばかりで、人間のようにいろんなことを総合的に考え動けるようになるまでにはかなり難しいんじゃないかと思っています。より現実の延長線上で考えるなら、恐らく単一機能のAIが連なっていくと思います。
Q.映画のテーマ性について教えて下さい。
下向監督:
私は、AIへの危機感はあんまり無いんです。私は仕事でもAIを使っているのですが、仕事上のAIと、我々が昔からイメージする、期待しているAIとは少し違っていて、私は昔の友好的なAIが好きなので、人間のパートナー、相棒になれるような、キャラクターと言うか”人種”に育っていって欲しいなという願望があります。
例えば、自動運転AIだったら、それはAIという無機物なものかもしれないけど、接している我々からするとタクシーの運転手と一緒な訳です。タクシーの運転手に反乱を起こされるんじゃないかとか思わないですよね。そりゃ、運転手に乱暴な物言いをすれば、乗車拒否をされるかもしれないですけど。タクシーの運転手を人としてリスペクトして接しているから安心して利用できるんです。AIも一つの人格としてリスペクトすれば、特に怖い事は無いんじゃないかなと思います。
Q.監督は「AIと人種」を今回のインタビューで何度か話されていますが、人種が生まれるとどうなりますか。
下向監督:
難しいですね。今、人種と言ったのはある種のメタファー(隠喩)なので、本当に法・社会整備として、人として一緒に扱えるかと言うと難しいと思います。今作も、前作(「センターライン」)でも言及しているのですが、人類同士が共存するのにあたって、ルール・法律が必要で、法律を守るモチベーション(動機付け)や制約には、刑罰が一つあると思います。刑罰を受けるのが怖いから、仕方なく従っているという側面があるかと思います。
人間は失って困るもの、命、お金、時間などがあるから、刑罰が成り立っているのですが、AIにはそれがない。命は無い、時間は無限だし、お金も持ってない。制約条件が働かない。そういう意味で、人間と同じように法律を適用するのはかなり難しいと思います。
ただ、この映画の中でも述べていますが、刑罰は人の大切なものを奪う事で成り立つので、AIにも大切なものがあるのであれば、それを奪う形で、AIもコントロール出来るんじゃないかと。
もし、AIが感情を持ったら、その感情自身が大切なものになり得ると思うんです。誰かを好きになる気持ちや、何かを守りたいという気持ち、自分自身がそのまま自分らしく生きていきたい気持ちとか。そういうものがあれば、刑罰も成り立つのではと。
そこが、卵が先か、鶏が先かの話で、感情が生まれたから刑罰が適用出来るのか、元々感情があったところに無理矢理法律を当てはめたことで可視化されたのか。そういう所が凄く入れ子状態になっていて、答えは無いのですが、そういうのを考えるのがとても好きで面白く感じています。
Q.監督はAIが好きですか?
下向監督:
好きかと言うと、私は大学時代から情報工学をやっていて、大学からプリミティブ(原始的)な機械学習からやっているので、馴染みは凄くあります。ソフトウェア自体の技術は、ハードウェアの制約を受けないとは言えないけど、ハードウェアよりもより自由で、いろんな可能性を引き出せる技術だと思います。
AIに関しては古来1950年代からずっと研究されていて、何度もブームの波が来ています。AIの基本原理は変わっていないのですが、今はハードウェアの向上によって急速に進化しています。AIの技術そのものが、凄く可能性が大きくなっていると思うので、そこはもちろんツールとして活用したいと思います。
今回、持ち出した題材はデジタルツイン(注:あらゆるもののコンピュータ上のシミュレーションモデル)なのですが、この映画の世界では「人間の感情や意思をシミュレーションしたもの」をデジタルツインと言っています。それを何故思いついたのかと言うと、私が欲しいと思ったからなんですよね。
前作(「センターライン」)を作った時は、撮影はいろんな方に協力してもらいましたが、それ以降は、エンジニアとしてフルタイムで働きつつ、映像編集して、関係者とのメールのやり取りをして、SNSも複数運営して、というのを全部自分一人でやっていて、もう一人自分が欲しいなと思ったんですよね。自分の代わりに仕事をしてくれるAIがいたらいいなと思ってデジタルツインを思いつきました。
Q.検察官の米子をサポートするAIのスマートバッジ「テン」について教えて下さい。
下向監督:
前作(「センターライン」)の話になりますが、主人公が検事、その相手カーナビのロボットで犯罪者。起訴する、起訴しない、という関わりの中で交流を築いていくのを描いていく、ということで、人間とAIのバディ物を作りたかったんです。
ただ、その時に検察庁に取材に行って、検察官にお話しを伺った時、「検察官と検察事務官は必ず一緒に行動する」と聞きました。その事実は守りたいと思って、前作の場合は、人間側の相棒としては人間の検察事務官を付けて、AIと対峙するという形を取りました。
今回は続編とはいえ、新規のお客様を意識して半分リブート(再起動)のつもりで作ろうと考えていたので、どうしても最初のコンセプトで、AIとバディ物としてやりたいと思ったんです。検察官とバディとして何が良いかと考えたら、バッジだと思ったんですね。
検察官にとってバッジは誇りだし、常に身に付けている。これがスマート機器になったら、面白いと思ったんです。もうひとつは、個人的なこだわりですが、敵対する人は相対している。仲間、バディは同じ方向を見ている、そういうことを意識して演出しています。バッジも、米子検事と同じ方向を見ていますよね。
Q.現実に「テン」のようなスマート機器が出来るには何年後ですか?
下向監督:
小道具ではなく、実際の物としては難しいと思います。何故かと言うと、このバッジの開閉する瞼があるじゃないですか、この瞼のパーツがこの小さいバッジの筐体の中に収まらないんです。映像的な嘘をついていて、バッジの金属の下にもう少し大きなカバーがあって、そこに瞼やメカなどのパーツが隠れているんです。検事がスマートバッジを身に付けている時も、服の下にこのメカ部分を隠していて。物理的に、この小ささでこのように動くのは不可能なんですよ(笑)。
Q.この映画のターゲット層はどの辺ですか?
下向監督:
特に若い人に注目して貰いたいなという思いがあります。今作の脚本を書いたのは私が31、2歳の時なのですが、その歳までに経験したこと、自分が20代、30代前半で感じたことを入れているので、そういう所に、今の若い方に、響くのではないかなと思っています。
Q.今回の三部作について、簡潔に教えて下さい。
下向監督:
・「ペルソナ」の見どころ
「ペルソナ」については凄く物語がシンプルです。一作目としては物足りないと思うかもしれませんね(笑)。見どころはAIというデジタルなものがタブレットの中に生きていて、その生き物が自律的に話して、それに対して検事もインタラクティブ(相互的)に話しているのが映像としても面白いかなと思っています。裁判シーンも結構拘って作ったので臨場感を感じて欲しいです。
・「名前のない詩」の見どころ
これは全然毛色が違う作品ですね。「ペルソナ」からシリーズものだと思ってご覧になったときに、どう思われるでしょうか(苦笑)。個人的に僕がやりたかった事を詰め込みました。(AIとは関係ないですが)僕は音楽が好きで、それを映画と組み合わせた、ミュージカルも好きなんです。
ミュージカルって嫌いな人もいて、その理由を尋ねると、「突然歌いだす意味が分からない」とかを聞きますよね。私は負けず嫌いな人間なので、「じゃあ歌う理由があればいいんだな」と(笑)。歌う理由を作るなら、絶対歌わないといけない状況に追い込まれればよい。歌を歌う事で事件が解決するというギミックはどうだろうかと。そういう、音楽とミステリーものを紐づけた作品は、自分が初とは言いませんが、多少は珍しくて目新しい作品なんじゃないかと思いますし、SFやミステリーに興味はなくても、純粋にバンドメンバーの青春群像劇として楽しんで貰えたらいいなと思います。
・「faith」の見どころ
お客様にとっての見どころっていうのが難しいですね。これも私のやりたい事を詰め込んだ感じなんですが、ソフトウェアエンジニアとして、業界あるあるがあるんですよね。コンピュータの性質のこういう所に躓いたとか。そういう専門知識を利用して、ミステリーが作れないかなと思ったんですよね。そういう所を楽しんでもらえればなと思います。
前作の「センターライン」という映画はAIに感情があるかを裁判で証明する、というストーリーでしたが、映画の中でAIの感情を証明するだけじゃなくて、その映画を見たお客さんの中で、このAIに感情があったのかどうかを感じて欲しいなと。
結局AIに感情があるかは自分たちがそれを信じるかどうかだと私は思っていて。それって、お芝居も同じで、役者さんが劇中で泣いたりすると、それを我々も感情移入して、貰い泣きしたりしますよね。でも、役者さんは、必ずしも本当に悲しくて泣いているわけではなく、演技として泣いていることだってあるわけです。それでなぜ作品が成立するかというと、観客がそのキャラクターが本当に泣いていると信じるから、そのキャラクターが、その世界で生きて感情を持っていると感じることができる。
人間は自分自身には感情があるのは分かりますが、自分以外の他人に感情があるかなんて証明できないし、分からないんです。それでも、自分と同じように他人にも感情があると思うのは、そう信じているからだと思うんです。
(電子通貨による贈収賄事件が描かれているfaithについて)お金も同じで、一万円札自体に物としての価値は無いけど、一万円と信じているから物の売買が成り立っている。実はAIとお金って、突き詰めていくとそういう共通点があるのを感じて面白いなと思って作ったので、そこまで深読みする必要は無いのですが、色んなものを信じるという事は、実体はないけど、すごく大事な事なんだなと、感じて貰えたらなと思います。
「INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部」
【キャスト】
吉見茉莉奈 大山真絵子 入江崇史 澤谷一輝
大前りょうすけ / 津田寛治
合田純奈 冥鳴ひまり(VOICEVOX)
松林慎司 みやたに 長屋和彰 荻下英樹
星能豊 南久松真奈 青山悦子 小林周平
中山琉貴 小松原康平 アビルゲン
松村光陽 辻瀬まぶき 澤真希
涼夏 美南宏樹 藤原未砂希 平井夏貴
長屋和彰 松本高士 香取剛
星能豊 松林慎司 もりとみ舞 橋口侑佳
長坂真智子 井上八千代 原田大輔 小川真桜
【スタッフ】
撮影監督:名倉健郎 撮影:名倉健郎 山縣幸雄 水島圭輔 照明:水島圭輔 録音:風間健太 ひらつかかつじ 合成協力:山縣昌雄
スタイリスト:SHIKI ヘアメイク:伊藤佳南子 美術:酒井拓人 スチル:内田綾乃 岡本ミヤビ 音楽:髙木亮志 劇中歌:ワスレナ 小野優樹 青地徹 エンジニア:平崎真澄
制作:美南宏樹 松田将大郎 倉橋健 村瀬裕志 涼夏 法律監修:弁護士 鈴木成公 衣装協力:国島株式会社 名古屋空撮映像協力:前原桂太 宣伝デザイン:大井佳名子
ロケーション協力:いちのみやフィルムコミッション 岡崎市観光推進課 旧本多忠次邸 東海愛知新聞社 日本陶磁器センター 料亭菊水
知多半島フィルムコミッション 南知多ビーチランド 津島市シティプロモーション課
製作:Production MOZU / NAGURA TEAM 監督・脚本・編集:下向拓生
下向拓生(しもむかいたくみ)
1987年愛知県生まれ、富山県、福井県育ち。大阪府立大学(現大阪公立大学)工学部及び同大学院にて情報工学を学ぶ。在学中には映画制作部に所属し撮影・編集・アートワークを担当、同時に大阪市内のテーマパーククルーとしてエンターテイメント精神を学ぶ。卒業後は精密機械メーカーに就職し、アルゴリズム開発を担当しながら、シナリオを独学しオリジナル作品で映画制作を再開。オリジナル2作目『N.O.A.』が第4回クォータースターコンテストグランプリ受賞、初長編作品『センターライン』は福岡インディペンデント映画祭2018グランプリ受賞、個人としては愛知県芸術文化選奨文化新人賞(平成30年)を受賞。
「INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部」01 ペルソナ・02 名前のない詩・03 faith
公式サイト:
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